今回のテーマは「関節リウマチと膠原病」について紹介していきます。
#14 膠原病と関節リウマチの診断と最新治療
膠原病は、皮膚や内臓の結合組織や血管に炎症・変性を起こし、さまざまな臓器に炎症を起こす病気の総称で、関節リウマチはそのうちの1つです。体の中にある免疫システムが自分自身に攻撃をしてしまう特徴から、自己免疫疾患とも呼ばれています。
免疫の異常と膠原病
「膠原病(こうげんびょう)」は別名「⾃⼰免疫疾患」とも呼ばれます。通常、体の外から入ってくる異物を排除する働きの免疫機能が、誤って自分の一部を敵だと思い攻撃してしまうことにより、体にさまざまな症状をきたします。体のどの部位を攻撃されるかで膠原病の中のどの病気に該当するか、病名(病状)が変わりますが、体の中で起こっていることは殆どこの免疫の暴走によるものです。
健康な血液の中には、ウイルスなどのさまざまな異物に対する「抗体」と白血球の一種である「リンパ球」が存在し、主にその二つが異物をきちんと見分けて攻撃して取り除くことで、正しい免疫の機能が成り立っているのです。
この免疫の働きは、大きく2段階に分けられ、ひとつは体に良くないものをすぐに取り除くもの、もうひとつは次に同じ『異物』が入ってきた時に備える働きです。これらが協力して体を異物から守っています。膠原病は細菌やウイルスが体にいないのに、間違って免疫が働いて起きる病気なので、感染症と違い他者にうつすことはありません。
膠原病の診断
膠原病にはさまざまな疾患があり、その診断は⾎液検査で自分を攻撃する「自己抗体」が検出されることと特徴的な症状がいくつかあることで確定します。
たとえば膠原病のひとつである「全身性エリテマトーデス」の診断のためには、①蝶形紅斑と⾔われる顔の発疹②円板状の発疹③光線過敏症④痛みのない⼝内炎⑤2箇所以上の関節の腫れや痛み⑥胸膜炎か⼼膜炎⑦尿たんぱく⑧けいれん発作や精神障害⑨溶⾎性貧⾎、⽩⾎球減少、リンパ球減少、⾎⼩板減少⑩⾎液検査で抗DNA抗体などの抗体が陽性⑪⾎液検査で抗核抗体が陽性、の11項目中4項⽬以上を満たすことが必要となります。
したがって、ひとつの症状だけ、あるいは検査項目の異常だけ、では病気ではない可能性が⾼くなります。そして同じ膠原病でも、自分の免疫がどのくらいの強さでどこを間違って攻撃をしているかによって、症状の強さや症状の種類は異なるので、それぞれの病状にあわせた治療薬の種類・用量の使い分けが重要になります。
関節リウマチの診断
関節リウマチも膠原病の一種。膠原病と同じで自分の免疫力が間違えて自分の関節を攻撃してしまうことで炎症が起こり、進行すると関節が変形してしまう怖い病気です。その診断は、関節の痛みがある場所の数や大きさ、リウマチ因子などの血液検査の異常を組み合わせて総合的に判断します。
リウマチ因子は関節リウマチの患者さんで高い方が多いのが特徴ですが、健康な方でも陽性になることがあるので、それのみでは診断にはつながりません。また、病状が進行するとレントゲンで骨の破壊を見つけることで診断につながりますが、そうなる前に診断する必要があります。その方法でもっとも簡単なのが超音波(エコー)検査です。ゼリーを付けた機器を関節にあてることによって関節の中に起きている炎症の有無が診断できるため、より早期に診断できます。
関節リウマチの治療薬
関節リウマチの治療は世界中で定められた治療方針で決められています。診断され次第、投与してはいけない病状(妊娠中など)でなければメトレキサートという薬剤を開始することが関節破壊を進行させないために重要になります。その効果は早くて3週以降とゆっくりではありますが、7割程度の患者さんに効き目がみられます。この薬が無かった20年以上前に比べると進行する患者さんはかなり減りました。
間違った免疫力をなおすために、健康な正しい免疫力もすこし低下しますので、服用中は感染症の予防を心がけることが重要になります。メトトレキサートの効果が十分ではない患者さんは、生物学的製剤と呼ばれるバイオ技術で作られ、間違った免疫力の重要な部分だけを治すことができる薬剤を用いたりもします。これらをうまく使い分けることによって、関節リウマチによって寝たきりなどの重篤な病状になることは殆どいなくなりました。
以前はステロイドホルモンと呼ばれる薬剤も関節リウマチの痛みや腫れを和らげるためにあわせて処方されることがありましたが、根本的な治療効果はなく、継続することで骨粗鬆症や感染症、糖尿病などさまざまな副作⽤が起きるため、発症の3か月以内の服用にとどめることが重要です。
ワクチンの重要性
ステロイドホルモンほどではないものの、関節リウマチの治療薬は正常な免疫力の低下につながりますので、治療薬を安全に続けていくためには感染症の予防が重要になります。うがいやマスク、手洗いなどだけでは身を守ることは不十分ですので、ワクチンを接種することが重要です。日本ではある年齢以上の方への接種がすすめられている肺炎球菌ワクチンと帯状疱疹の不活化ワクチンは、海外では若年者にも推奨されています。特に肺の病気がある方が肺炎球菌による肺炎のリスクが高くなりますので、肺炎球菌ワクチンは2種類を併用して、また帯状疱疹は免疫⼒の低下で何度でも発症するため、一度かかったことがある方でも積極的に接種を検討してください。
- リウマチ・膠原病内科
- 主任科部長 山根 隆志
- 膠原病の一部は難病に指定され、原因のすべてが解明されていないなど、恐ろしいイメージがある病気の一つではないかと思います。しかし診断や治療の方法は日々進歩し、特に治療薬に関しては有効で副作用の少ないものが続々と登場しています。病気の勢いがある時期を過ぎると、ほぼ無症状である「寛解状態」を維持できる方も多いので、必要な時期にはワクチンをするなどして他の合併症によって病状が悪化させないようにしながら、調子の悪い時期を乗り越えていきましょう。
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