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#13 卵巣がんと遺伝~遺伝性乳がん卵巣がん症候群~ | 加古川中央市民病院
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今回のテーマは「卵巣がんと遺伝」について紹介していきます。

#13 卵巣がんと遺伝
~遺伝性乳がん卵巣がん症候群~

現在、日本人の2人に1人が「がん」と診断されています。男性では胃がん、女性では乳がんが第一位となっています。婦人科がんには主に子宮がんと卵巣がんがありますが、その中でも遺伝が関係する卵巣がんについてお話しします。

卵巣がんについて

毎年、日本全国で卵巣がんと診断されるのは1万人強で、その数は増加傾向にあります。晩婚化などの社会的な背景もあり発症リスクを持つ人が増加しています。発症は50歳代に多いですが若い方に発症するタイプもあります。卵巣がんは初期症状がないことが多いので、約半数が3期以上の進行がんの状態で発見されます。初期の段階で治療を開始した方が治療成績が良いので、早期発見が大切です。

出典:国立がん国立がん研究センター がん対策情報センター「がん登録・統計」

卵巣がんの病期

手術により切除した組織をしらべないと正確ながんの広がりが評価できないため、卵巣がんの病期は手術の後に決まります。

出典:日本婦人科腫瘍学会(編):患者さんとご家族のための子宮頸がん・子宮体がん・卵巣がん治療ガイドライン 第2版, 金原出版, p154, 2016

どんな人が卵巣がんになりやすい?

初経が早い、閉経が遅い、出産経験がない、高齢出産歴がある、肥満、排卵誘発剤の使用などが発症リスクを上げるとの報告があります。また子宮内膜症という良性の病気が稀に卵巣がんの原因になるとも言われています。卵巣がんの約10%が遺伝的な要因であることも知られています(遺伝性乳がん卵巣がん症候群)。

がんは遺伝するの?

がん細胞そのものが遺伝することはありませんが、がんを発症しやすい体質があるとその体質が親から子へ伝えられる可能性はあります。がんの発症を抑える働きをしている遺伝子があり、その遺伝子に変化(変異)があるとがんを発症しやすくなります。卵巣がんに関連する遺伝子はいくつかありますが特にBRCA遺伝子*¹が注目されています。

*¹BRCA(ビーアールシーエー)タンパク質は、DNA(デオキシリボ核酸)に生じた変化を修復するタンパク質です。

遺伝するがんの特徴は?

家族内で特定のがんになる人が多い、若い年齢で発症する、いろんな臓器に発症する、左右2つある臓器の場合は左右両方に発症する、繰り返してがんが発症する、といった特徴があります。

遺伝性乳がん卵巣がん症候群について

遺伝性乳がん卵巣がん症候群とは「遺伝性のがん」の種類の1つです。特定の遺伝子に生まれつき特徴を持っていることにより、がんに罹患しやすい体質のことを「遺伝性のがん」と総称します。そのうち、誰もが持っている遺伝子である「BRCA1」または「BRCA2」という遺伝子に変化(変異・バリアント)がみられる状態を遺伝性乳がん卵巣がん症候群といいます。

BRCA遺伝子がうまく働かないことで乳房、卵巣、前立腺、膵臓などにがんができやすい状態です。日本人の一般的な卵巣がんの発症リスクは1.6%程度ですが、BRCA1またはBRCA2遺伝子に変異があると発症リスクが上昇するとのデータがあります。

全卵巣がん患者さんの中でBRCA1遺伝子変異が8.3%に、BRCA2遺伝子変異が3.5%に認められたとのデータもあります。

出典:一般社団法人日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構 遺伝性乳がんを知ろう!第1章

BRCA遺伝子って何?

BRCA1またはBRCA2遺伝子とは13番目と17番目の染色体にある誰もが持っている遺伝子で、DNAの傷を修復してがんになるのを防いでいます。BRCA遺伝子は乳房、卵巣、前立腺、膵臓などでよく働いています。

遺伝性乳がん卵巣がん症候群の診断法は?

遺伝性乳がん卵巣がんを確定するためには遺伝学的な検査が必要です。「BRCA1」または「BRCA2」遺伝子の全体を検査する方法、変異がある部分のみに焦点を当てて検査する方法などがあります。

遺伝性乳がん卵巣がん症候群を診断することの利点は?

  1. がんの発症予防 
    前がん病変に対する処置やがん発症率が高い臓器(卵巣や卵管)を予防的に摘出することでがんの発症予防が可能な場合があります。
  2. がんの早期発見
    がんの発症リスクに合わせた個別の検診を行うことで、本人や血縁者のがんの早期発見に役立つことがあります。
  3. がんの治療
    遺伝性の腫瘍の一部では原因遺伝子に合わせた有効な薬剤が開発されており、治療薬の選択を行う上で参考になる場合があります。

産婦人科
主任科部長 宮本 岳雄

 

今回は遺伝性乳がん卵巣がん症候群という病気についてお話をしました。この病気は卵巣がんだけでなく乳がんや前立腺がんや膵臓がんにも関連する病気です。遺伝学的検査を行うに際してはカウンセリングなども必要となります。詳細は遺伝子診療部門にお問い合わせください。

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